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東京高等裁判所 昭和53年(う)1650号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一三〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人本人及び弁護人小倉〓子の各控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官新野利の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

被告人本人及び弁護人の控訴趣意のうち、各事実誤認をいう点について

所論は、いずれも、原判示第二の事実につき、被告人は岡田から覚せい剤の買入れ先を探して欲しいと頼まれ、福永に話しを通し、岡田の道案内をしたものであつて、岡田が福永から覚せい剤を買い入れるのを幇助したに過ぎないのに、被告人が岡田重男と共謀のうえ福永廣雄から覚せい剤を譲り受けたと認定した原判決は事実を誤認したものである、というのである。

しかし、原判決の掲げる関係証拠によれば、被告人が岡田重男と共謀のうえ、福永廣雄から覚せい剤の結晶粉末約六〇グラムを代金九六万円で譲り受けた事実を認めることができ、記録を調べても他に右認定を左右するに足りる証拠はない。すなわち前記関係証拠によると、被告人は、本件覚せい剤の取引につき、所論主張のように岡田を福永に引き合わせてその道案内をしたに止まらず、譲り受ける覚せい剤の数量や価格について被告人が専ら福永と交渉し、さらに覚せい剤をとりに行く福永のタクシー代を出してやる等のことをしているのであるから、本件覚せい剤の譲受けにつき被告人は岡田との共同正犯としての責任を免れないことは明らかである。

論旨は採用できない。

被告人本人及び弁護人の控訴趣意のうち各量刑不当をいう点について

所論は、いずれも、被告人に対する原判決の量刑が不当に重いというのであるが、本件事案の内容は、被告人が岡田重男と共謀して覚せい剤の結晶粉末約六〇グラムを譲り受けたほか、常習として新井常弘に対し革靴ばきのままその顔面を足蹴りにしさらに同人の顔面を手拳で二、三回殴打するなどの暴行を加え、同人に加療約一週間を要する傷害を負わせた、という相当重大なものであり、被告人は、昭和五二年二月、覚せい剤取締法違反の罪で懲役一〇月に処せられているほか、暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害などにより四回懲役刑に、暴行、傷害、脅迫などにより一一回罰金刑に処せられている前科があることを考え合わせると、被告人の刑責は重大である。

したがつて、本件覚せい剤の譲受けにより被告人自身はなんら利益を得ていないこと、常習傷害の点については被害者の側にも一半の責任があると考えられること等被告人に有利な情状をしん酌しても被告人を懲役二年六月の刑に処した原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。

論旨は採用できない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数のうち一三〇日を原判決の本刑に算入し、なお刑訴法一八一条一項但書により当審における訴訟費用は被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

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